形態で比べる
中学受験でオンライン塾を使う場合のメリットと注意点
中学受験の塾が担う機能を進度管理・演習量・情報・競争環境に分けると、オンラインで代替しやすいのは解説の伝達で、演習量の確保と遅れの検知は家庭に移ります。併用の役割分担と、学年によって判断が変わる理由を整理しています。
この記事について
- こんな方に向けています
- 中学受験を検討していて、オンライン塾の利用を考えている保護者
- 読み終えたときの状態
- オンラインで補える範囲と補えない範囲を理解し、使い方を決められる状態
塾を検討し始めると、たいてい通う日数と帰宅時刻のところで話が止まります。週に何日通うのか、終わるのは何時か、そこから食事と宿題をやると何時に寝ることになるのか。下の子の生活時間と重なる、送迎の担当が決まらない、そもそも通える範囲に校舎がない、という条件が加わると、通塾を前提にした計画が組めなくなります。
オンライン塾を調べ始めるのは、多くの場合この段階です。ところが調べると、「受験は通塾でないと難しい」という意見と「オンラインでも十分に対応できる」という意見が並んで出てきて、どちらが自分の家庭に当てはまるのか分かりません。
判断がつかないのは、「塾」という一語が複数の機能をまとめて指しているからです。オンラインで置き換えられるかどうかは、機能ごとに答えが変わります。まとめて可否を決めようとする限り、結論は出ません。
中学受験の塾は5つの機能をまとめて提供している
受験期の塾が家庭に提供しているものを分けると、おおよそ次の5つになります。
- 解説の伝達:単元の考え方を説明する部分。いわゆる授業そのもの
- 質問への対応:解けなかった問題について、どこで詰まったかを特定して直す部分
- 演習量の確保:宿題とテストによって、一定量の問題を解く時間を強制的に作る部分
- 進度の管理:カリキュラムに沿って進み、遅れが出たときにそれを検知する部分
- 同学年の受験生がいる環境:順位が出る、同じ範囲を同じ時期に解いている子が周りにいる状態
通塾では、この5つが同じ場所で同時に供給されます。校舎に行けば授業を受け、宿題を渡され、テストで順位が出て、遅れれば声がかかります。分けて意識する必要がありません。
オンラインに移すと、この束がほどけます。5つのうちいくつかはそのまま届き、いくつかは形を変え、いくつかは家庭側が引き受けることになります。オンライン塾の検討で見るべきなのは、授業の質そのものより、ほどけた束のどこを誰が持つのかという配分です。
オンラインで代替しやすいのは解説、しにくいのは演習量と進度の検知
5つの機能を、代替のしやすさで並べると次のようになります。
| 塾が担っている機能 | オンラインでの代替 | 代替する場合に必要になること |
|---|---|---|
| 解説の伝達 | しやすい | 分からなかった箇所を後から特定できること(録画の見返し、教材と授業の対応づけ) |
| 質問への対応 | 条件つき | 子どもが疑問を言葉にできること、解いた答案の手元を画面越しに共有できること |
| 演習量の確保 | しにくい | 演習の時間と締切を家庭側で設計し、実際に机に向かうところまで運ぶこと |
| 進度の管理と遅れの検知 | しにくい | 週単位で消化状況を確認する担当を家庭内で決めること |
| 同学年の受験生がいる環境 | 最もしにくい | 公開模試の会場受験など、外部に代替手段を作ること |
上2つと下3つの差が、オンライン塾の評価が割れる原因です。授業の内容だけを見れば、オンラインは通塾に対して大きく劣りません。むしろ、聞き逃した箇所を戻って確認できる、席の位置による見えにくさがない、といった利点があります。
一方で、下3つは授業の質とは無関係のところで効いてきます。通塾は「決まった時刻に決まった場所へ行く」という拘束によって、演習の時間を半ば自動的に確保しています。オンラインにするとこの拘束が外れます。往復に使っていた時間が浮くのは事実ですが、浮いた時間が演習に回るとは限りません。何もしなければ、単に空き時間が増えます。
画面越しの授業で子どもがどう振る舞うかは、性格よりも「質問を言葉にできるか」に左右されます。この点はオンライン個別指導が向いている子・向いていない子で、家庭で観察できる形にして扱っています。
「授業を受けた」と「演習が積み上がった」を別々に数える
オンラインに切り替えた家庭でよく起きるのが、授業は毎回受けているのに成績が動かない、という状態です。原因の多くは、授業の理解ではなく演習量にあります。
受験勉強で時間を食うのは、解説を聞く工程ではなく、自分で解く工程と、間違えた問題をやり直す工程です。通塾では、この2つが宿題とテストの締切によって外側から管理されています。締切があるから、前日に慌ててでも手をつけます。オンラインでは締切の効き方が弱くなります。提出先が画面の向こうにあり、やらなくてもその場で誰かに何か言われるわけではないからです。
そのため、視聴の記録と演習の記録は分けて残してください。確認するのは次の2点です。
- 出された問題のうち、実際に解き終えた割合
- 間違えた問題のうち、後日もう一度解き直した割合
この2つが下がっているなら、授業を変えても状況は改善しません。変えるべきは演習の設計のほうです。学習が止まる原因を開始条件から見直す手順は、学習習慣がつかないときに最初に見直すことにまとめています。
併用するなら、同じ機能を二重に買わない
オンラインと通塾を併用する場合、決めるのは「どちらを主軸にするか」ではなく「どの機能をどちらに持たせるか」です。ここを決めずに追加すると、演習量が家庭の処理能力を超えます。
| 組み合わせ | オンラインに持たせる機能 | 家庭に残る作業 | 向く状況 |
|---|---|---|---|
| 通塾を主軸に、オンライン個別を追加 | 特定単元の質問対応と穴埋め | 何を質問させるかの選定(塾の宿題から抜き出す) | 全体は回っているが、特定の分野だけ落ち続けている |
| オンラインを主軸に、模試だけ会場受験 | 解説の伝達と演習の供給 | 進度の管理、時間の管理、直しの確認 | 通える校舎がない、通塾の移動と時間が体力的に続かない |
| 教材配信型に伴走型を足す | 教材の供給と、週次での進捗確認 | 学習そのものの実行(解く時間の確保) | 教材は決まっているが、家庭内での管理が続かない |
| 通塾を主軸に、映像授業で欠席分を補う | 休んだ回の内容の回復 | 視聴した回と未視聴の回の記録 | 習い事や体調で欠席が定期的に出る |
二重に買いやすいのが「解説の伝達」です。通塾の授業を受けたうえで同じ単元の映像授業を追加すると、聞く時間だけが増えて、解く時間が減ります。追加するなら、通塾側で足りていない機能を名指しで選んでください。
逆に、二重にしてよい唯一の機能は演習の場の提供です。塾のテストに加えて公開模試を会場で受けるといった重ね方は、競争環境という代替しにくい部分を外から補うことになります。
指導形態そのものの違いを整理してから決めたい場合は、個別指導と集団指導はどう選び分けるかを先に読むと、併用の設計がしやすくなります。
家庭に移る負担は「時間の管理」ではなく「何を切るかの判断」
オンラインにすると保護者の負担が増える、とよく言われます。ただ、増える中身を具体的に見ないと対策が打てません。実際に移ってくるのは次の4つです。
- 時間の枠を決めること。通塾では時間割が外から与えられます。オンラインでは、いつ授業を受け、いつ演習をするかを家庭で固定する必要があります。
- 消化状況を把握すること。どの単元が終わっていて、どこが手つかずかを、週単位で誰かが見ることになります。
- 学習環境を用意すること。通信、端末、音の出せる場所、手元を映せる配置。きょうだいがいる家庭では、この確保が最も面倒な部分になります。
- 何を切るかを決めること。これが最も重いものです。
4つ目について補足します。受験期には、渡された課題を全部やり切れない時期が必ず来ます。通塾していれば、優先順位は塾側がある程度決めます。この単元は飛ばしてよい、この教材は今はやらなくてよい、という判断が向こうから出てきます。オンライン、とくに教材配信型を中心に組んだ場合、その判断が家庭に残ります。
判断を家庭で背負う前提なら、相談できる相手を有料で確保しておくほうが結果的に負担は軽くなります。伴走型や個別指導型を「教えてもらう場」ではなく「切る判断を一緒にする場」として使う考え方です。保護者がどこまで手を出すかの線引きについては、家庭学習で保護者はどこまで関わるべきかで、手を引く順番の形で扱っています。
学年と、志望する学校の出題の性質で結論が変わる
同じ家庭でも、いつ検討しているかで答えは変わります。
低学年から4年生ごろは、可逆性が高い時期です。学習量がまだ多くなく、合わなければ戻せます。オンラインを試すコストが最も低いのはこの時期で、子どもが画面越しの指導に慣れるかどうかを確かめる期間としても使えます。
5年生は、扱う量が増え、単元同士のつながりが密になる時期です。ここで遅れると、遅れが後の単元に波及します。進度の検知が家庭に移ることの影響が最も大きく出るため、オンライン中心にするなら、週単位で消化状況を見る仕組みを先に作ってから切り替えてください。
6年生は、演習と時間配分の訓練が中心になります。この時期の切り替えは、教材体系の入れ替えを伴うため負荷が高くなります。6年生で全体を移すより、足りない機能だけを足す形の併用に寄せるほうが現実的です。
志望する学校の出題の性質によっても向き不向きが出ます。記述量が多い出題を想定するなら、書いた答案を読んで返してもらう工程が必須になるため、答案を画像で提出して添削が返る仕組みがあるかを確認します。制限時間内の処理量を問う出題を想定するなら、時間を計った演習とその採点を回す仕組みが要ります。対話の中で考えを深める形式を想定するなら、双方向のやり取りができる形態が向きます。学校ごとの傾向は各校の公表する情報で確認する範囲であり、ここでは扱いません。
試す前に決めておくこと
オンラインを検討する場合、始める前に次の3つを決めておくと、判断が感覚に流れにくくなります。
- 評価する期間:何週間続けて判断するかを先に決めます。1〜2回で判断すると、環境の慣れの問題と内容の相性の問題が区別できません。
- 見る指標:子どもの「分かった」という言葉ではなく、演習の消化率と直しの実施率で見ます。理解の自己申告は、画面越しだと特に当てになりません。
- やめる条件:どうなったら元に戻すか、あるいは別の形に変えるかを書いておきます。決めていないと、合わないまま学年が上がります。
体験や無料期間を使う場合は、授業の分かりやすさより、質問の場面を見てください。子どもが「ここが分からない」と言えたか、言えないときに講師側が気づいて聞き返したか。この2点は、続けたときの成果に直接つながります。
サービスの型を横並びで比べる段階に入ったら、小学生のオンライン学習サービスの選び方で、契約前に確認する項目と比較の手順を整理しています。
よくある詰まりどころ
画面の前では静かだが、実は分かっていない
集団形式のオンライン授業では、理解していない状態が表面化しにくくなります。授業後に「今日やった問題を1問だけ説明して」と口頭で聞く運用を入れると、把握できます。教科書の言葉をなぞるだけで説明が止まる場合は、理解の手前で止まっています。
教材が二重になって、どれもやり切れない
併用を始めた家庭で最も多い詰まり方です。追加した側ではなく、元からある側の教材を減らす判断を先に行ってください。両方を満たそうとすると、直しの工程から削られていきます。
移動時間がなくなったのに、勉強時間が増えない
浮いた時間の使い道を決めていない場合に起きます。移動していた時間帯をそのまま演習の枠として固定し、開始の合図を生活動線の中に置くと定着しやすくなります。
きょうだいがいて、授業中に集中できない
環境の問題は内容の相性より先に解決してください。時間帯を変える、場所を変える、ヘッドセットを使うといった調整で解消することが多く、これを試す前に「オンラインは合わない」と結論づけると、選択肢を一つ失うことになります。